フランス語への誘い
フランス語はややこしい。名詞に男性名詞と女性名詞があったり、動詞が活用したり、発音が難しかったり。
特に発音は日本語とは仕組みが違うので一朝一夕には上達せず、聞き間違えられることもしばしば。
一つ覚えては一つ忘れての繰り返しで、なかなか上達している実感がない。
それでもフランス語自体を嫌いにはならない。
それはフランス語の美しさに魅了されたから。
フランス語の美しさには音と論理の二つにあると思っていて、僕は特にその論理の美しさに惹かれます。
Ce qui n'est pas clair n'est pas français(明晰ならざるものはフランス語にあらず)という言葉にあるとおり、とにかくフランス人は論理的に話します。3歳児でさえ、Parce que(なぜなら)と言いながらしゃべる。
フランス人と映画を観たとき、見終わった後には出口に立ち止まって議論がスタート。あのシーンはどうだとかこうだとか、それに対して他の人がそうじゃないああだこうだとか延々と続く。
みんなこんなにしゃべることがあることに感心。それぞれ自分なりの考えが話されているので面白く、ついつい聞き入ってしまう。
日本人同士だったら、簡単に感想を言い合うだけで、こんなに長く議論はしないはず。
日本人はお互いに共感し合うことに重きを置くが、フランス人は個人の考えを共有することに重きを置くらしい。
一体どうやったらみんながこんな風に論理的に話す方法を身につけて、議論好きになるんだろう?
フランス語を勉強してきてだんだんその理由が分かってきました。
フランスでは、論文も口頭発表も、序論・立論・結論の三つのパートに分けて文を構成します。
これは論文の構成としては一般的ですが、英語では序論の部分で論文全体のまとめを全て説明してしまうところ、フランス語では序論は問題提起を行い結論までいかないと主張がわからないという、フランス語独自の方法になっています。
このやり方は簡単な文章から難しい論文まで一貫していて、フランス人はこの方法を徹底して身につけます。一度身につければ一生涯、基本的にこの論理の枠組みの中で書いたり話したり。
フランスにはバカロレアという試験があって(簡単に言えば高校の卒業証明兼大学への入学資格)、この試験では文系も理系も哲学の問題が必須。
例を挙げれば、2018年の人文系で出された問題の一つがこれ。
-La culture nous rend-elle plus humain?
(文化は私たちをより人間的にするか?)
えっ、どうやって答えたらいい?笑
フランス人の高校生たちは4時間かけて記述式のこの問題に取り組みます。
すごいなあと感心することは、この問題が一つだけの解答を求めるものではなく、個人の考えを求めていること。
こうして学生時代から考える力を養う教育が施されていれば、自分の意見を明確に話すことができるのもわかる気がするし、みんなが多様な意見を持つことは当たり前という感覚が身につくはず。
物事を考える方法は徹底したルールに沿って身につけていくが、あとは個人が自由に考えて良い。
このフランス流のやり方が、フランス人の議論好き、またフランス文化の豊かさにつながっているのかなと思います。
ここまで褒めてきましたがその反面、論理で解決できないような問題(差別などに関するもの)まで言葉で処理しようとすることが問題を悪化させる一因ではないのかと個人的に感じることもあります。
また、フランス語には罵り言葉のような汚い言葉も多い。
いずれにしろ、言語を習得することは新しい考え方なども学ぶ事ができて楽しい。楽しいけど大変。笑
せっかくフランス語を使える環境にいるのに、インターネットを介して日本語に触れてばかりじゃもったいない。
ということで、フランス語の勉強しよう!
Là, tout n'est qu'ordre et beauté,
Luxe, calme et volupté.
L'Invitation au voyage, Charles Baudelaire
そこでは、全ては秩序と美、
豪奢、静寂と快楽。
旅への誘い、シャルル ボードレール